日本語らしい相槌、英語らしい相槌 村上春樹『街とその不確かな壁』より
- hanakan860
- Jun 9, 2023
- 3 min read
Updated: Jun 13, 2023
こんにちは。
今日は村上さんの小説の話題です。
村上さんの最新作『壁とその不確かな壁』、お読みになりましたか?
私は発売日に買って読みました!
良かったですね~。
あの名作をほうふつとさせる内容で、序盤はかなり興奮しました。
この小説には「資格がある」という表現が頻繁に出てきますが、
小説でこの題材を使う資格があるのは、
世界中で村上さんただ一人ですよね!
それと、なんといっても、最後のほうのシーンの、
少年が語る言葉。
これにもグッときました。
すごくすごく、切実で、少年の想いがひしひし伝わってきました。
読み終わった後も、何度もそのシーンを思い出しています。
心にずっととどめずにはいられない、そんな言葉でした。
さて、表題の件です。
小説から抜粋します。
「あるいは余計なことだったかもしれませんが、このあたりでは庭というのは、それはそれで、大事な意味を持つものですから」と小松さんが言った。
「もちろん」と私は適当に同意した。
(226ページ 村上春樹『街とその不確かな壁』村上春樹/著(新潮社))

読まれた方、ここの箇所で「?」と思いませんでしたか?
私は思いました。
ちょっと説明しておくと、主人公の「私」が転職して
新しい住まいを持つことになり、
そのお世話をしてくれた人が、庭師を入れて
庭の手入れもしておいてくれた。
そのあとのやり取りです。
という内容はどうでもよくて、問題は、話者A(お世話した人)の
意見に対して話者B(私)が同意した、というところ。
その話者Bの同意の言葉が?なわけです。
普通、日本語で話すとき、こういう風に意見されて同意するとき、
「もちろん」とは言いませんよね?
一番自然なのは、「そうなんですね」という相槌です。
「もちろん」とは言わない。
でも、英語では「もちろん」が自然です。
Of courceというやつです。
『ノッティングヒルの恋人』で、ヒュー・グラントが
これと同じような話の流れでOf courseと言ってましたね!
そうなんですねを英語にするとOKとかI agreeとかになるかと思いますが、
それよりもOf courseと返す方が自然だし、好印象です。

「あるいは余計なことだったかもしれませんが、このあたりでは庭というのは、それはそれで、大事な意味を持つものですから」と小松さんが言った。
「もちろん」と私は適当に同意した。
↓
“You may not want to,” said Komatsu, “but the garden has an important meaning for some reason around here.”
“Of course,” I agreed without considering.
訳してみました(文芸翻訳難しい…)。
英語だと自然だけど、日本語だとやっぱり違和感ありますね。
この英文から和訳するとき、訳者が「もちろん」と
訳することはない気がする。
でも、村上さんの中ではきっと自然なんでしょう。
にも書きましたが、
村上さんは日本人と英語スピーカーの真ん中くらいの
視点で見ておられる方なので、
こういう相槌がすっと出てくるんだと思います。
ということを、純・日本人の私は思うのでした。